犬はとても我慢強い動物で、実際に症状が出た時にはかなり病気が進行していることが多くあります。
病気の早期発見や原因を見つけるのに重要なのが「血液検査」です。
血液検査には、健康診断で行う血液一般検査(CBC)と生化学検査の2種類あり、それぞれ調べる項目が異なります。
どちらの血液検査も定期的に行うと安心です。
特に、7歳以上の高齢犬の場合は、定期的な健康診断を兼ねて半年に1度、最低でも年に1度は血液検査を行いましょう。
目次
- 犬の生化学検査とは
- 犬の生化学検査の正常値(基準値)と検査結果の見方
- AST(GOT):肝臓酵素
- ALT(GPT):肝臓酵素
- ALP(アルカリフォスターゼ):肝臓酵素
- T-Bil(総ビリルビン):肝臓機能
- TP(総タンパク質):肝臓機能
- ALB(アルブミン):肝臓機能
- Glb(グロブリン):肝臓機能
- NH3(アンモニア):肝臓機能
- γ-GTP(GGT):肝臓機能
- TBA(総胆汁酸):肝臓機能
- BUN(尿素窒素):腎臓機能
- CRE(クレアチニン):腎臓機能
- AMY(アミラーゼ):膵臓酵素
- LIP(リパーゼ):膵臓酵素
- Na(ナトリウム):電解質
- K(カリウム):電解質
- Cl(クロール):電解質
- Ca(カルシウム):電解質
- IP(無機リン):ミネラル
- CRP
- Glu(血糖値)
- CPK(クレアチニンキナーゼ)
- T-cho(総コレステロール)
- TG(中性脂肪)
- T4(サイロキシン):甲状腺
- FT4(遊離サイロキシン):甲状腺
- コルチゾール:副腎
犬の生化学検査とは
生化学検査は、血液を遠心分離させて、化学成分を分析して行う検査です。
血液を化学的に反応させて、起きた反応から血液中の酵素やホルモンの量を測定し、体内の臓器を働き、内臓の病気や感染症の有無を調べます。
生化学検査は、必要な項目だけ検査することができるので、血液一般検査(CBC)に加えて検査することが多いです。
生化学検査では、次のことがわかります。
- 肝臓の状態
- 腎臓の状態
- 脂質
- すい臓の状態
- 心臓の状態
- 糖代謝
- ホルモン
犬の生化学検査の料金
基本的に、動物病院は自由診療になるので、血液検査の料金は、各動物病院で違います。
また、血液検査で行う項目も各動物病院で違い、全血球検査(CBC)のみの検査や、全血球検査に生化学検査の項目をいくつか加えたものを血液一般検査として扱っている所もあります。
病気の原因や体の状態を知る為の生化学検査は、必要な項目を組み合わせて検査ができるため、1項目の料金が設定されています。
- 生化学検査1項目:500~800円
- 全血球検査(CBC)+生化学検査:6,000~14,000円
※生化学検査の項目数は動物病院によって違います
犬の生化学検査の正常値(基準値)と検査結果の見方
採血は、健康診断などで行う血液一般検査(CBC)と同じで、前足か後ろ足の静脈で行います。
1回に必要な血液の量は、およそ0.5ml程です。
生化学検査を行う項目によって、検査結果が分かる日数が変わります。
生化学検査の正常値(基準値)は、動物病院や検査所で違います。
実際に病気の状態を確認する場合は、出ている症状と生化学検査の結果、画像診断やエコーなどを総合して判断されるので、正常値(基準値)は、大まかな目安と考えてください。
検査を受けた時の犬の体調などでも変化するので、通常の愛犬の数値を知っておくことが大切です。
AST(GOT):肝臓酵素
参考正常値(基準値):18~53U/L
【数値から疑われる主な病気】
高い:肝疾患・筋肉壊死・糖尿病・歯周病
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)は、心臓や肝臓の細胞にある酵素です。
細胞に炎症があったり、壊れたりすると、血液中にAST(GOT)が増加します。
AST(GOT)の数値が上昇しても肝臓が悪くないこともあります。
- ALT(GPT)とAST(GOT)が一緒に上昇⇒肝機能がダメージを受けています
- AST(GOT)のみ上昇⇒筋肉がダメージを受けています
ALT(GPT):肝臓酵素
参考正常値(基準値):20~109U/L
【数値から疑われる主な病気】
高い:肝疾患・体酸素症
低い:肝不全
ART(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、主に肝臓の細胞にある酵素です。
肝臓の細胞に炎症があったり、壊れたりすると、血液中にART(GPT)が増加します。
ALP(アルカリフォスターゼ):肝臓酵素
参考正常値(基準値):47~237U/L
【数値から疑われる主な病気】
高い:肝疾患・門脈静脈シャント・腎疾患・肝疾患・骨疾患・クッシング症候群
ALP(アルカリフォスターゼ)は、肝臓、骨、小腸に多く含まれます。
これらに何らかのダメージがあると、血液中に流れ、数値が変化します。
特に、肝臓と骨にダメージがあると数値が高くなります。
T-Bil(総ビリルビン):肝臓機能
参考正常値(基準値):0.0~0.1mg/dl
【数値から疑われる主な病気】
高い:肝疾患・胆管肝炎・フィラリア症・急性膵炎
ビリルビンは、古くなった赤血球が破壊されて時にできる酵素です。
ビリルビンには、肝臓に運ばれる前の間接ビリルビン(I-Bil)、肝臓で処理された直接ビリルビン(D-Bil)の2種類あり、この2つを合わせたものが総ビリルビン(T-Bil)になります。
T-Bilは、肝臓や胆管で問題があると血液中に増加します。
そのため、肝疾患では黄色い色素のビリルビンが増えることで、体が黄色くなる黄疸の症状がでます。
TP(総タンパク質):肝臓機能
参考正常値(基準値):5.0~7.1g/dL
【数値から疑われる主な病気】
高い:脱水・感染症・肝疾患・高タンパク血症
低い:腎疾患・栄養障害
TP(総タンパク質)は、血液の中のALB(アルブミン)やGlb(グロブリン)などの総タンパクの量を調べたものです。
数値は、肝疾患や脱水状態の場合に高くなり、腎疾患や栄養不良の場合は低くなります。
ALB(アルブミン):肝臓機能
参考正常値(基準値):2.5~3.5g/dL
【数値から疑われる主な病気】
高い:脱水
低い:栄養不足・寄生虫感染・消化不良
ALB(アルブミン)は、血液中にあるタンパクの中で一番多く、肝臓で合成され、腎臓でろ過されます。
脱水の時のみ数値が高くなります。
肝臓での合成が少なかったり、栄養不足によってALBの原料が不足した場合に、数値が低くなります。
Glb(グロブリン):肝臓機能
参考正常値(基準値):2.6~5.1g/dL
【数値から疑われる主な病気】
高い:脱水・感染症・肝炎・慢性炎症
低い:免疫不全
Glb(グロブリン)は、血液中に多く含まれるタンパク質で、免疫機能をサポートする働きをします。
脱水や感染症などで数値が高くなり、免疫に異常がある場合に低くなります。
NH3(アンモニア):肝臓機能
参考正常値(基準値):30~80μg/dL
【数値から疑われる主な病気】
高い:門脈体循環シャント・肝機能低下・腎機能低下
NH3(アンモニア)は、タンパク質の代謝によって作られ、肝臓で尿素に合成され、排出されます。
肝臓に異常があると、血液中にNH3(アンモニア)が蓄積し、数値が高くなります。
γ-GTP(GGT):肝臓機能
参考正常値(基準値):2~12U/L
【数値から疑われる主な病気】
高い:肝機能障害・胆管閉鎖・胆石
γ-GTP(ガンマージーティーピー)は、肝臓や腎臓などに含まれています。
肝細胞が壊れたり、結石などで胆管が詰まったりすると、血液中に流れ出します。
肝機能の低下や、胆管が詰まった場合などの数値が上昇します。
TBA(総胆汁酸):肝臓機能
参考正常値(基準値):0~14.2μmol/L
(空腹時:5μmol/L以下、食後15μmol/L以下)
【数値から疑われる主な病気】
高い:門脈体循環シャント・肝炎
TBA(総胆汁酸)は、肝臓細胞の異常や、門脈(肝臓に栄養を運ぶ血管)の異常を調べる検査です。
胆汁酸は、胆汁の一つで、肝臓の細胞でコレステロールから合成されます。
肝臓で作られた胆汁酸は、凝縮して胆のうに溜められ、食事をすることで胆のうから十二指腸へと排出されます。
TBA(総胆汁酸)は、特殊な血液検査になり、空腹時と食事2時間後の2回検査を行います。
正常な場合であれば、食事後の数値が空腹時の3~4倍になります。
空腹時、食後の数値がどちらも高い場合は、肝細胞や門脈の異常が疑われます。
BUN(尿素窒素):腎臓機能
参考正常値(基準値):9~31mg/dl
【数値から疑われる主な病気】
高い:腎不全・尿毒症・脱水・消化管出血
低い:肝障害・たんぱく質不足
BUN(尿素窒素)は、血液の中の尿素に含まれる窒素の量を調べたものです。
腎臓が正確に働いているかが分かり、BUNの数値が高いほど、腎臓の働きが悪くなっていることになります。
CRE(クレアチニン):腎臓機能
参考正常値(基準値):0.5~1.4mg/dl
【数値から疑われる主な病気】
高い:腎疾患・脱水・心疾患
CRE(クレアチニン)は、腎臓の働きによって、尿として対外へ排出されます。
腎臓の機能に異常がある場合、数値が高くなります。
AMY(アミラーゼ):膵臓酵素
参考正常値(基準値):566~1807U/L
【数値から疑われる主な病気】
高い:膵臓疾患・腎疾患・胃腸炎・腸閉塞
AMY(アミラーゼ)は、すい臓や唾液腺から分泌される消化酵素です。
すい臓に異常があると、血液中にAMYが流れだし、数値が高くなります。
すい臓疾患の他、腎臓疾患や胃腸炎などでも数値が高くなります。
LIP(リパーゼ):膵臓酵素
参考正常値(基準値):22~158U/L
【数値から疑われる主な病気】
高い:膵臓疾患・腎疾患
LIP(リパーゼ)は、AMY(アミラーゼ)と同じく、すい臓から分泌される消化酵素です。
すい臓疾患の他、腎臓疾患や腸炎でも数値が少し高くなります。
Na(ナトリウム):電解質
参考正常値(基準値):145~155mEq/L
【数値から疑われる主な病気】
高い:糖尿病・高体温・肺疾患・腎不全
低い:心不全・アジソン病・ネフローゼ
Na(ナトリウム)は、電解質(Na・K・Cl・Ca)の一つで、体内の水分を調節する働きをします。
ミネラルのバランスを保つために、必要なものです。
ナトリウムの数値が高いと、血液中の水分が少なくなります。
K(カリウム):電解質
参考正常値(基準値):4.4~5.6mEq/L
【数値から疑われる主な病気】
高い:アジソン病・溶血・糖尿病・不整脈
低い:腎不全・おう吐下痢・けいれん
K(カリウム)は、電解質(Na・K・Cl・Ca)の一つで神経や筋肉の働きをサポートします。
ナトリウムを体外に排出を促す働きがあり、ナトリウムを調整も行います。
腎機能が低下したり、赤血球が壊れる溶血によって、数値が高くなります。
一方、下痢やおう吐が続くと、水分と一緒に体外に出てしまう為、数値が低くなります。
Cl(クロール):電解質
参考正常値(基準値):108~117mEq/L
【数値から疑われる主な病気】
高い:脱水・クッシング症候群
低い:高脂血症・アジソン病・おう吐
Cl(クロール)は、電解質(Na・K・Cl・Ca)一つで血液の血漿などの体液に存在します。
ナトリウムと同じ働きし、体の中に酸素を届けます。
Clの数値は、電解質のバランスが崩れ、水分が多く失われると高くなり、水分より電解質が多く失われると低くなります。
Ca(カルシウム):電解質
参考正常値(基準値):9.1~11.3mg/dl
【数値から疑われる主な病気】
高い:アジソン病・リンパ腫・腎不全・成長期・骨折
低い:急性膵炎・副甲状腺機能低下症・妊娠中・産後
Ca(カルシウム)は、電解質(Na・K・Cl・Ca)一つで骨や歯を作り、血液の凝固作用、神経刺激を伝える働きをします。
血液中のCaは、副甲状腺ホルモンとビタミンDによって一定の量に保たれています。
副甲状腺に何らかの異常が起きると、ホルモンの分泌が過剰になり、Caの数値が高くなります。
一方、腸からCaを吸収を高める働きがあるビタミンDが欠乏すると、血液中のCaが少なくなり、数値が低くなります。
IP(無機リン):ミネラル
参考正常値(基準値):1.9~5.1mg/dL
【数値から疑われる主な病気】
高い:腎不全・内分泌疾患・二次性上皮小体機能亢進症
低い:骨軟化症・栄養不足・一次性上皮小体機能亢進症
IP(無機リン)は、ミネラルの一つで、副甲状腺ホルモンやビタミンDなどで調整されます。
Caと同じくの骨を作るために重要な働きをします。
また、糖代謝やエネルギー代謝にも必要な成分です。
腎臓の働きが低下すると、IP(無機リン)が体外に排出されず、血液中に蓄積し、数値が高くなります。
CRP
参考正常値(基準値):1.0mg/dl未満
[数値から疑われる主な病気]
高い:細菌感染症・腎盂腎炎・子宮蓄膿症
CRPは、C反応性タンパクといい、細胞が壊れたり、炎症を起こすと24時間以内に急激に反応するタンパク質のことです。
数値が高いほど、重症度が高く、炎症が強いということになります。
また、炎症があっても、短時間で数値に影響がでることはありません。
CRPは、病気の原因や、部位を特定するための検査ではなく、数値をみて総合的に判断する為に使われます。
Glu(血糖値)
参考正常値(基準値):79~131mg/dl
【数値から疑われる主な病気】
高い:糖尿病・クッシング症候群
低い:肝不全・低血糖・腫瘍
GLU(血糖値)は、グルコースのことです。
空腹時に肝臓から送り出されて、脳や筋肉、赤血球で消費されます。
インシュリンで吸収と産出のバランスを取っています。
数値が高いと、糖尿病が疑われ、低いと低血糖が疑われます。
CPK(クレアチニンキナーゼ)
参考正常値(基準値):57~425U/L
【数値から疑われる主な病気】
高い:心疾患・筋肉疾患(打撲)・関節疾患・骨疾患
CPK(クレアチニンキナーゼ)は、酵素の一つです。
筋肉細胞でエネルギーの代謝に関わる働きをし、心筋や骨格筋などに多く含まれています。
CPKは、心臓系の疾患や、激しい運動後、打撲などによる筋肉損傷の場合に数値が高くなります。
T-cho(総コレステロール)
参考正常値(基準値):115~318mg/dL
【数値から疑われる主な病気】
高い:糖尿病・クッシング症候群・ネフローゼ・肥満
低い:アジソン・肝障害・糖尿病
T-cho(総コレステロール)は、血液の中に含まれるすべてコレステロールの量を検査したものです。
大半のコレステロールは、肝臓で作られています。
糖尿病やクッシング症候群などが疑われる場合に、数値が高くなります。
TG(中性脂肪)
参考正常値(基準値):18~90mg/dL
【数値から疑われる主な病気】
高い:糖尿病・クッシング症候群・高リポ蛋白血症(遺伝性)
TG(中性脂肪)は、トリグリセリドと呼ばれます。
肥満に関係するもので、肝臓、すい臓などに異常がおきると数値が高くなります。
ミニチュアシュナウザーは、遺伝的要素でTG(中性脂肪)の数値が高くなります。
T4(サイロキシン):甲状腺
参考正常値(基準値):0.7~2.8ng/dL
【数値から疑われる主な病気】
低い:甲状腺低下症
T4(サイロキシン)は、甲状腺から分泌されるホルモンです。
数値が低い場合は、甲状腺低下症が疑われます。
T4(サイロキシン)の数値が正常値でも、甲状腺低下症の症状があれば、FT4(遊離サイロキシン)の検査を行うことがあります。
FT4(遊離サイロキシン):甲状腺
参考正常値(基準値):0.7~3.2ng/dL
【数値から疑われる主な病気】
低い:甲状腺低下症
甲状腺ホルモンの中でタンパク質と結合しないのがFT4(遊離サイロキシン)です。
T4(サイロキシン)と同じく数値が低い場合は、甲状腺低下症が疑われます。
コルチゾール:副腎
参考正常値(基準値):1.0~7.2μg/dL
【数値から疑われる主な病気】
高い:クッシング症候群
低い:アジソン病
コルチゾールは、副腎から分泌されるホルモンです。
数値が高いとクッシング症候群、低いとアジソン病が疑われます。
一部のステロイド製剤の使用で、数値が高くなることがあります。