犬との生活で避けて通れないのは「抜け毛」です。
犬には、換毛期と呼ばれる春と秋の毛の生え替わりがあります。
この時期に起きる脱毛は、犬が体温を調整するために行う自然な行為なので特に問題はありません。
注意しなくてはいけないのが、換毛期以外の脱毛です。
毛艶がなかったり、特定の部位の脱毛など、通常とは違う毛の抜け方は、病気の可能性があります。
目次
犬の脱毛症の原因と症状
病気が原因によって起こる抜け毛を「脱毛症」といいます。
犬の脱毛症には、「皮膚病(感染症)」「内分泌の疾患によるもの」「アレルギー」「遺伝性」「ストレス性」と主に5つの原因があり、それぞれ毛の抜け方や症状が違います。
犬の脱毛症は完治するまで時間がかかるので、異変を感じたら、すぐに動物病院を受診しましょう。
皮膚病(感染症)が原因で脱毛する
ノミやダニ、真菌(カビ)や細菌などに感染した事によって起きる皮膚病が原因で脱毛します。
犬のよく見られる皮膚病は、アラカス症・皮膚糸状菌症疥癬(白癬)・ツメダニ症・マラセチア性皮膚炎・膿皮症などです。
感染した原因によって病名が異なりますが、どの皮膚病にも共通した症状があります。
- かゆみ
- 皮膚の赤み
- フケ
- 脱毛
これらの症状が見られたら、皮膚病の可能性が高いです。
皮膚病は、放置しておくと症状が全身に広がるので、早めに動物病院で受診しましょう。
犬のアラカス症(毛包虫症)
アラカス症の初期症状は、顔、前足などに3cmくらい大きさの抜け毛が起きます。
アラカス症は、次のような症状が見られます。
- フケ
- 毛が抜ける
- 膿胞ができる(ニキビのようなもの)
- 皮膚の赤み
アラカス症による脱毛は、顔⇒首⇒前足⇒足の付け根⇒胴体へ広がっていきます。
重症化すると、細菌や真菌で二次感染を起こし、「かゆみ」「化膿」「出血」を繰り返します。
アラカス症の原因は、イヌニキビダニ(毛包虫)です。
もともとイヌニキビダニは、イヌの体に常在しており、通常では症状がでることはありません。
病気などで免疫力が低下すると、異常増殖し、アラカス症を発症します。
主に抵抗力の弱い子犬が罹り易い病気です。
成犬が発症する場合は、糖尿病やアトピー性皮膚炎などの別の病気が関係してることが多いです。
アラカス症(毛包虫症)の治療
アラカス症の治療は、殺ダニ剤の投与をし、別の病気が関係している場合は、そちらの病気とも並行して治療していきます。
比較的症状が軽くても1ヶ月以上の投薬治療が必要になり、投薬を中断すると再発する可能性が高くなります。
アラカス症の治療は、根気よく続けることが大事です。
皮膚糸状菌症
皮膚糸状菌症による脱毛は、丸く抜けるのが特徴です。
感染している周りの毛も脆くなっており、手で摘まむと簡単に抜け落ちるため、10円ハゲのように丸く毛が抜けます。
皮膚糸状菌症の症状は、規則性はなく、体中の感染した場所にランダムに現れます。
よく見られるのは、顔・耳・首・前足・尻尾・背中などです。
皮膚糸状菌症は、次のような症状が見られます。
- 皮膚の赤み
- 丘疹(米粒くらいの湿疹)
- 毛が抜ける(円形)
- フケ(脱毛部位)
- かさぶた(脱毛部位)
痒みはないと言われていますが、犬によって痒みを感じることもあるようです。
皮膚糸状菌症の原因は、糸状菌というカビの一種です。
糸状菌が犬に付き、毛や爪の根元に寄生しながら次第に増えていき、発症します。
抵抗力の弱い子犬や、免疫が低下している犬、持病がある犬などに多く見られる病気です。
皮膚糸状菌症は、犬だけでなく猫やうさぎによく見られ、特に猫が罹り易いことから「猫カビ」とも言われています。
感染力が高く、動物から人、人から動物へも感染します。
感染している犬が近くにいる場合は注意しましょう。
人が感染した場合は、「赤み」「痒み」「水膨れ」が見られます。
皮膚糸状菌症の治療
皮膚糸状菌症の治療は、抗真菌剤の内服・塗り薬を併用していきます。
その他には、抗真菌シャンプーで洗浄を行います。
抗真菌シャンプーは、「ミコナゾールが含まれるマラセブ」や「クロルヘキシジンが含まれるノルバサンシャンプー」が使われることが多いです。
治療を中断すると、再発する可能性があるので、根気よく続けましょう。
お家では、感染が拡大しないように、ケージやハウスだけでなく、犬が接触する場所の除菌を行います。
犬用のベットなどの洗える物は、塩素系漂白剤を使って洗濯し、ケージやハウス、ブラシ類は塩素系消毒薬で除菌しましょう。
塩素系消毒薬は、水500mlにハイターやブリーチなどの塩素系漂白剤(原液濃度約5%)を10ml(ペットボトルキャップ2杯分)加えるだけで、簡単に作ることができます。
漬け置きが出来るものは、この液に10分間程度漬けておきましょう。(塩素なので、色が抜けて白くなります)
糸状菌だけでなく、ノロウイルスの除菌にも効果的です。
作り置きができないので、1回で使い切ってください。
※塩素を使っているので、使用時は手袋を装着し、換気も行いましょう
マラセブ

マラセブはマラセチア皮膚炎への効果が有名な動物用医薬品なのですが、皮膚糸状菌症の治療にも用いられます。
動物病院で処方されることが多い治療薬です。
主成分は、ミコナゾール硝酸塩とクロルヘキシジングルコン酸塩液で、用法用量が厳しく制限されているので、獣医師の指示に従って使用してください。
ノルバサンシャンプー

ノルバサンシャンプーは皮膚病の予防や治療に使われる動物用医薬部外品です。
動物病院で処方されることもあるシャンプーですので、一定の薬用効果の期待値できると理解して良いでしょう。
主成分は「酢酸クロルヘキシジン」で、他には一般的なシャンプーのような成分が表示されています。
健康な犬への皮膚病予防としての使用も認められるほか、子犬や子猫にも使えるので、マラセブに比べ安心して使用できます。
薬用酢酸クロルヘキシジンシャンプー

フジタ製薬の薬用酢酸クロルヘキシジンシャンプーは皮膚病の予防や治療に使われる動物用医薬部外品です。
主成分は「酢酸クロルヘキシジン」で、ノルバサンシャンプーと同様の効果が期待できます。
アマゾンの犬用シャンプーや猫用シャンプーでいつもランキング上位の売れ筋商品です。
商品のレビューも良く価格も抑えられているので、他の商品との比較検討に加えてみてはいかがでしょうか。
アレルギーが原因で毛が抜ける
何らかのアレルギーが原因で、毛が抜けます。
原因となるアレルギーを特定し、排除するまで症状は治まりません。
犬に多いアレルギーには、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎があります。
食物アレルギー
食物アレルギーは、目や口の周りに症状が起きやすく、皮膚や被毛だけでなく、消化器にも影響が起きます。
食物アレルギーは、次のような症状が見られます。
- 痒み
- 皮膚の赤み(顔やお腹、肛門)
- 抜け毛が多くなる(毛がパサつく)
- 下痢
- おう吐
食物アレルギーの原因は、穀物(小麦・トウモロコシ・米)や鶏肉、卵、大豆など様々です。
年齢・犬種に関係なく、アレルギーが出る可能性がありますが、特に1歳までの発症が多くなります。
食物アレルギーの治療
食物アレルギーの治療は、血液検査や除去食試験で原因となるアレルゲンを特定します。
アレルゲンを排除すると症状が出なくなるので、薬は必要ありませんが、飼い主による食事の管理が一生必要になります。
犬のアトピー性皮膚炎
犬のアトピーは、ずっと続く痒みが特徴です。
目や口の周り、耳、お腹、脇、足先(指の間)など皮膚の薄い部分に症状が出やすい。
アトピー性皮膚炎は、次のような症状が見られます。
- かゆみ
- 皮膚の赤み
- 抜け毛
- 湿疹
- 肌がカサカサ
- 肌の色が黒ずむ
アトピーは、ハウスダスト・カビ・花粉などのアレルゲンに反応して、体内で免疫が過剰に働くことが原因です。
この他、生まれつき肌のバリア機能が弱いのも原因の一つになります。
犬のアトピーは、1~3歳までに発症することが多く、遺伝の要因が大きく影響していると言われています。
犬のアトピー性皮膚炎の治療
アトピーの治療の第一段階では、即効性のある「ステロイド剤」や、副作用の少ない「インターフェロン」などを使い、アレルギーの反応を抑えていきます。
また、保湿効果のあるシャンプーやローションで保湿力を高め、肌のバリア機能を修復し、アレルゲンが侵入しにくい肌へと改善していきます。
必要があれば、ドッグフードなどの食事の改善も行います。
ホルモン異常が原因で毛が抜ける
内分泌の疾患によるホルモン異常が原因で、毛が抜けます。
内分泌疾患でよく見られる病気は、クッシング症候群・甲状腺低下症・アロペシXなどです。
症状に関しては、それぞれ違いますが、抜け毛には痒みがありません。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
クッシング症候群による抜け毛は、痒みがなく、左右対称に毛が抜けるのが特徴です。
毛が抜けた部分の皮膚が薄くなったり、黒ずんだりします。
クッシング症候群は、次のような症状が見られます。
- 多飲多尿
- 食欲が増す
- お腹が膨れる
- 呼吸が荒い
- 毛が抜ける
- 湿疹
- ふらつく
クッシング症候群には、「下垂体クッシング」「副腎腫瘍性クッシング」「医原性クッシング」の3つあり、副腎から出る副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されることが原因です。
8歳以上の高齢犬に多く見られる病気で、進行すると糖尿病などの合併症を引き起こします。
どの犬種も罹るおそれがありますが、特にダックスフンド・ポメラリアン・プードル・ボクサーに多いです。
クッシング症候群の治療
「下垂体クッシング」「副腎腫瘍性クッシング」は、投薬による内科療法と腫瘍を取り除く外科療法があります。
「医原性クッシング」は原因となる薬を徐々に減らす治療を行います。
アロペシアX
アロペシアXによる抜け毛は、頭部と足の毛以外が左右対称に抜けるのが特徴です。
痒みがなく、初期症状では「毛が薄くなってきた」「毛艶がない」くらいの症状しかありません。
また、クッシング症候群の症状に似ているため、「偽クッシング病」とも言われています。
アロペシアXは、次のような症状が見られます。
- 毛が抜ける
- 色素沈着(皮膚が黒くなる)
- 毛艶がない
現段階では、はっきりとした原因が分かっていませんが、副腎のホルモン異常が原因ではないかと考えられています。
ちなみに、名前についているXは、原因が分からないということを表してつけられた名前です。
ポメラリアンに多く見られ、3歳までの発症率が高くなっています。
アロペシアXの治療
アロペシアXは、毛が抜ける以外の症状がないので、治療は毛を生やす為の治療になります。
主な治療法は、毛周期のサイクルを整える働きのある薬や性ホルモンを抑制する薬などう使った投薬治療です。
去勢を行っていないオス犬の場合は、去勢が有効なことがあります。
その他、ビタミンサプリの利用やマッサージなどもありますが、効果は犬によって変わってきます。
治療開始しても発毛までに時間がかかるので、根気よく続けていくことが大切です。
遺伝が原因で脱毛する
特定の犬種にだけ見られる遺伝性の脱毛症です。
遺伝性疾患の場合は繁殖に適していないので、発病している犬が少なく、あまり症例がありません。
この他、同じ遺伝性が原因の病気に「黒色被毛毛包形成異常症」あります。
黒色被毛毛包形成異常症は、黒い毛色のみ毛が抜けます。
淡色被毛脱毛症(CDA)
淡色被毛脱毛症は、1歳未満での発症が多く見られ、ブルー・シルバー・グレー・フォーンなどの淡い毛色の部分のみが抜けます。
頭・背骨に沿って毛が抜ける事が多いです。
淡色被毛脱毛症は、次のような症状が見られます。
- フケ
- 特定の部位の抜け毛
- 脱毛部分がカサカサになる
淡色被毛脱毛症は、メラニンの異常で毛が脆くなるのが原因ではないかと言われています。
初期段階では毛が折れて短くなっているため、脱毛しているように見えます。
進行性の病気なので、病状が進行すると、最終的に脱毛していきます。
遺伝性が高く、繁殖させる場合は注意が必要です。
ミニチュアピンシャー・イタリアングレーハウンド・ダックスフンド・プードルなどに見られます。
淡色被毛脱毛症の治療
今のところ、淡色被毛脱毛症には、有効な治療法がありません。
病気の進行を抑え、発毛促進させる投薬を行いますが、完治するのは難しいです。
ストレスが原因で毛が抜ける
人間と同じように、犬も強いストレスを感じることで円形脱毛症のような症状を起こします。
痒みや赤みがなく、手足や尻尾に見られる円形の脱毛は、ストレスからきている可能性があります。
犬のストレス性円形脱毛症
犬の円形脱毛症は、皮膚や体に異常がないのに毛が抜けるというのが特徴です。
ストレス性の脱毛には、次のような症状が見られます。
- 円形脱毛
- 同じ場所を舐める・噛む(手足や尻尾)
- 無駄吠え
- トイレの失敗
同じ場所を舐める・噛むという症状は、酷くなると、皮膚にダメージを与え、感染症などの二次被害が起きることがあります。
「皮膚の炎症」「出血」などがある場合は、動物病院を受診しましょう。
犬は、ストレスに弱いと言われています。
例えば、「環境の変化」「運動不足」「長時間の留守番」など、私たちにとっては些細なことでも、犬にとっては大きなストレスになっているかもしれません。
犬のストレス性の円形脱毛症の治療
犬のストレス性の円形脱毛症では、犬が感じているストレスを緩和させることが重要です。
長めの散歩やブラッシングなど、犬がリラックスできることや、好きなことをやってあげましょう。
二次被害が起きている場合は、その処置を行います。